少子化対策の本質

近年、メディアや社会で頻繁に話題となる「出生率の低下」や「全国の出生率が1.2」、「東京の出生率が0.99」などの表現は、実際には国が発表している「合計特殊出生率」(Total Fertility Rate: TFR)を指しています。しかし、多くの人々はこの指標の本当の意味を正しく理解しておらず、「夫婦が平均的にもつ子どもの数」と誤解していることが多いのです。この誤解が少子化に関する議論や政策に大きな影響を与えています。

出生率の誤解

出生率が1.2と聞くと、「夫婦が1.2人しか子どもを持たなくなった」と誤解し、すぐに子育て支援問題に直結させる人が多いです。実際には、テレビや新聞社などの大手メディアでさえも「単純に夫婦のもつ子どもの数だと思っていました」と驚くほど、一般的に誤解されているのです。

しかし、出生率は「夫婦がもつ平均の子どもの数」ではありません。出生率は、その時代に生きる「全女性」が結婚の有無に関係なく、生涯に持つであろう1人当たりの子どもの数を表す予想平均値、つまり女性1人当たり指標です。この誤解が、日本の少子化に対する理解を大きく歪め、誤解に基づいた施策が優先されることで少子化政策を間違った方向へ進めていると言えます。

出生率の正しい理解

出生率の具体的な計算方法は、15歳から49歳の全女性を対象に、1歳ごとに

(X歳の女性の出生数)/(X歳の女性数)=X歳の出生率

を計算し、15歳から49歳まで足しあげることで算出されます。ここで重要なのは、日本では婚外子比率が2%台と非常に低く、子どもはほぼ既婚女性から出産されているという点です。未婚女性の出生率は0とみなしても計算上支障はなく、そのため未婚女性の割合が高いほど、出生率は低く算出されます。

少子化の本質的な原因

出生率は「夫婦がもつ子どもの数という指標ではない」ため、出生率が低下した場合、未婚女性割合の増加が影響している可能性も考慮する必要があります。ゆえに、既婚男女への妊活支援・子育て支援といった「結婚後の対策」が出生率低下に最も有効かどうかは、この指標の高低だけでは語れません。

出生率は日本のような移民割合が極端に少ない国においては、

  1. 未婚女性の割合
  2. 既婚女性あたりの出生数

の2要因に影響されます。

では、実際にデータを眺めてみると、出生率の低下は未婚女性の割合が増加したことによる影響を直接的に受けていることが分かっています。つまり、夫婦の持つ子供の数はそれほど影響していないことが知られているのです。

少子化対策に有効な手段

つまり、少子化対策に有効な手段は、高齢出産の補助や子供に対するばら撒き政策ではなく、早婚対策です。生涯未婚率を下げ、高齢で結婚するよりも早く結婚することが、税制上のメリットも高く、経済合理性も高い状態を政策で作り出すことが重要です。

少子化対策の本質は、社会全体で若い世代の結婚を支援し、早い段階での家庭形成を促進することです。これにより、出生率の向上と持続可能な社会の実現を目指すべきです。